プロボイ クリエイティブ・ディレクター石田氏による、
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その中から「2006年07月26日(水)  スーパーマン リターンズのコラボレート」を抜粋。


2006年07月26日(水) スーパーマン リターンズのコラボレート

昨年からお知らせしている通り「スーパーマン リターンズ」のコラボレートをやりました。

2年前に「スーパーマン対バットマン」なる映画の企画があった際、すでにどちらもコラボレートをやろうということで進んでいたもので、昨年の「バットマン ビギンズ」はその一環。

ワーナーさんでは「マトリックス」「バットマン」に続く三度目のタッグとなる。

僕はもともと「アメコミ」が大好きで、もちろんテレビシリーズも以前の映画も、ヒーローモノはほぼすべて見ている。
アメコミって、日本と違って、あんまり少女マンガとか青春モノとかないんで、アメコミ以外だと、ディズニーのものか、トム&ジェリー、ポパイ、とかのコメディやら子供向けになっている。
それは、ずっと以前からおんなじで、今でもマンガは日本のものが多く読まれている。

昔、日本には怪人と戦うヒーローがほとんどで、スーパーマンのような天災から助けてくれるヒーローはいなかつたし、また、日本のヒーローは必ず勝つことが決まりであるが(最近は違うものもあるが)、アメコミでは挫折する。悲しむ。逃げる。隠れる。 そして人々も非難を浴びせることもあるという等身大の人間ドラマがその核となっている。
だから、でてくる悪役も人生においてなんらかの挫折や悲しみを背負わされていて、一言で言うと、かなり強くてかなり悪人だがその原点は世論がつくりだした人間の表と裏の「裏」であるというものが多い。

そんなヒーローたちの中でも「スーパーマン」は超人で「善」のシンボルといっても過言ではない。

そのスーツの色は「アメリカ」の色で(今回の映画ではその点はあまり言及しないが)、アメリカンドリームそのものだ。
世界になにかあれば彼はそれを助けに行く。
それは事故、事件、なんであってもだ。
まさにこれはアメリカそのものなのである。

そんな時代も過ぎ、今ではアメリカも苦悩している。
そして帰ってきたスーパーマンも人並み以上に大きな苦悩と困難を背負わされていく。

アメコミの世界はヒーローは必ずしもいい奴ではない。
たまには「ひとを助ける」ことに嫌な気持ちになったりもする。
そんな彼らの人間性はとても面白くて、ヒーローは「自分の中にもいるのだ」と感じさせてくれるものでねそれが自分のビタミンにもなってきたのである。

そんなことから映画は僕の人生をつくるものとなっていた。

大げさではない。時計を創っていても自分は「人の人生」に影響を与えるために創っていると思っている。

ただ、たんにおもしろく見ていたら、それだけで終わる。
たとえば「ウルトラマン」でもいい。
その中にはいろんなドラマがある。
ちょっとした人生の訓示もある。そういうドラマを観て、考えることはとても大切なことで、人生で大きな収穫となる。

そういう「映画」と「時計」のコラボレートは僕にとっては重要なことで、また、定番ではできない表現を思いっきり行うことができる世界でもある。

スター・ウォーズでも、スーパーマンでも、かなり僕はデザインでわがままを言った。
今まで、一発でできたものは「バットマン」の901くらい。 あとはほぼ、違ったものになってしまったものもある。

スーパーマンでは、映画版ではあるが、赤や青の色のトーンはなじみのあるもので行った(スタイル)。
かたや904ではスーパーマンの三原色は一切排除して、ガラスに三原色が変化して現れる仕様を施した。

スタイルは、「バットマン」のときと同じ、Tシャツ感覚でロゴをデザインしたものだ。
苦労したのは、デザイン上、すっきり見せるために、機能の意味でのロゴ以外のデザインを以下に排除するかということだった。要は時計でなくてはいけないし、機能は使えなくてはいけないがロゴマークは何者にも干渉されないでいること。
そしてできれば、昔、こんなの玩具であったんじゃないのっていうようなヴィンテージ感覚を感じさせたかったので、ワーナーさんに頼んで、今回のようなデザインでの許可をもらったのである。

904は一転して、スーパーマンの「本当」をデザインにした。
つまりスーパーマンは本当はクリプトン星人で、ぎらぎらのスーツに身を包んでいて、叡智は人間をはるかに超えて、地球上ではクリプトンナイトに影響されないため、その力は強靭、空を飛べて、その速度はめちゃくちゃ速い。
そんな彼を表現しようとするとだいたい、三原色を使ってしまうのだが、そうじゃないんじゃないかなと僕は思っていた。
だからデザインでそういうものがでたり、また、デザイン画集からとったものでデザインされていても、これは「僕の思うヒーローではない」と思っていて、僕はスーパーマンが地球で、何故、人々のために尽くすのかを考えた場合、その原点は「なくした故郷」そして「自分しかいない(クリプトン星人が)」という寂しさをポジティブにもった結果だという結論に達したわけです。

それはスーパーマンが育ての父を亡くして、家をでて、メトロポリスにやってくるとき、つまり人の死を通して「逃げてきた」ときに芽生えた正義である。

「バットマン」でも、実は「スパイダーマン」でもそれは同じである。
「スパイダーマン」は愛する人々の死を乗り越えながら、ヒーローとして成長していく物語である。映画で登場する大好きなヒロインも実はアメコミでは死なせてしまう。
そのたびに、それを乗り越えて、正義とは?に苦難する。

数年前に「スパイダーマン」をコラボレートしたとき、僕はまだそういう次元でものごとを考えていなかった。
だから文字盤には「SPIDER-MAN」という映画のロゴを利用した。

しかしそれ以降は、僕はなるべくヒーローの守るものとはなんなのかということを考えて、その原点をモデルに反映してきた。

「バットマン」では、バットマンが使うことを想定したり、彼が守るゴッサムシティの夜空を意識した。
「マトリックス」では、くるだろうITの未来を意識した。
「サンダーバード」では、やはりペネロープの車を意図したものとサンダーバードの5つの工作機を色で意識した。またその5つの色は地球の5大陸を意図したものでもあるわけで、それまさしくサンダーバードが守るものだ。
「キル・ビル」ではまさに彼女のきるスーツがデザインになっていて、それはオニツカタイガーのシューズと同じテーマ性のものだった。
「キル・ビル2」では、やはりテーマとなるハートブレイクを意識した。
なんでハートブレイクなのか?それは映画を観ればわかることだ。

904で僕が創ったものは、まさに彼のスーパーマンの原点である。

地球にできたクリプトン星と似た「空間」。
そこで彼は宇宙・地球のあらゆる知識を得る。たぶん、ここで彼は地球でうまくやっていくために「郷に入る」という意味を
理解し、クラーク・ケントを育んだのだ。
そのクラークは田舎にいたときの跳ね返り者ではなく、ドジで気弱な大男。
ということで、この「要塞」「クリプトン星」を意識してデザインにした904のモデルは、スピード感、近未来感、そしてクリスタル感覚を融合したものにしたかったのである。
透けている文字盤は、格子のデザインを行うことで、立体的な都市感覚をつくった。
ガラスには「青」「赤」「黄色」をイメージで感じさせる偏光レンズ仕様にした。
スーパーマンのマークもふくめて「三原色」は排除して、徹底して「クリプトン星」を意識したシルバーに色を統一した。
プリントも「RETURNS」と「2006」だけにして、2006年のモデルであることを強調して、また、ここからはじまるのだという
みなさんへのテーマを意図した。
その代わり、裏にぶたは「アメコミ」を徹底的に意識した。
あの有名なフレーズも入れてある。

ケースの色は今まででは「900LGB グラン・ブルー」でのみ使用した「ホーニング」をベースにしたものだ。
固まり感をだいことで「未知の素材」であるような感じが出れば良いかと思ったためだ。
今までの「ポリッシュ」「サテン」は定番でも限定でもあるので宇宙の未知を感じさせるには弱かった。
だから「???」と思わせるためには、今まで利用がない、もしくは利用したが「みな忘れた」ものを採用するのが、一番、斬新であって、好き嫌いが分かれる(つまり特徴的)ものだろうと思ったのである。

光るものは、鏡面は未来感をだせるが、その未来感も今では変わった。
F1の素材や宇宙の素材で、カーボンやチタンやらといろんなものが使われる中、光っている素材は実はほぼない。
どちらかというとグレイやむしろ綺麗なものではない。
そういう素材の感覚が今、日本でもやっと理解されるときがきた。
高い素材だが、軽かったり、たとえば飛行機のブレードに利用されることになるだろう1100度に耐える金属だったり、そのようなハイスペックで、未来の金属は、みな、お世辞でも綺麗ではないがそれを時計に活用しているブランドが多くでてきた。「パネライ」「ゼニス」「リシャール・ミル」。。。

GSXでも904のスーパーマンでは、スーパーマンとは一瞬ではわからないが、ハイスペックに見えるものを創りたかったし、大げさだけど、スーパーマンは「みんなの中にもいる」というメッセージのようなものを時計にしたかったのである。
そこにこのような素材の注目度は時計業界にはとてもいいことである。

もちろんスーパーマンでは実際の素材は高くて使えない。
GSXでは素材と素材感を意図的に感じさせないのもデザインである。
今回の904では、そういう意味でステンレススティール的な匂いを消したかったのである。