<Love Letter on The Side Seat>
待つ人もいないはずのこの店にきてしまう。よく君と待ち合わせをした埠頭の小さなバー。ラジオからは誰も聞いていないジャズが流れて、そしてジョッキーがリスナーの便りに言葉を返している。君を待っていた頃は五分さえも永遠のようで、二人でいる一晩は瞬きのような一瞬だった。ラジオから流れる他人のストーリーに反応しておかしく笑って、君の心を探ったりして、スリリングで、でも心地よい疲れが自分を充実させてくれた。
君がいなくなってから半年。プライドが許さなかったためのわかれ。眠れない雨の夜。こうして今日も君がきているのではないかと、ここに来てしまう。
からっぽのワイングラス。耳にはいっても、ただ流れていくジャズの音。雨の音がただ繰り返しているだけである。
「夏の雨はまだいいよね。冬の雨って、心まで寒くなるよね」「意地ばかり張ってても仕方ないんじゃないの」とマスターは僕にささやきかける。いまさらどんな顔して会えばいいのさ。しかもクリスマスイヴだ。誰かもうきっといい人がいるに決まっているじゃないか。
夏まで二人の想い出が頭を駆け巡っていく。であった”1998”のジェシィズバーでのこと。入り口から三番目の席が君の指定席で、僕が仕事帰りによるとよく一人で座っていた。「あんなきれいな子なんだから、誰かいるさ」そうずっと思っていた。でも1998のクリスマスイヴ。やはり彼女は一人でジェシーズにきた。「こんな日に一人だなんて」僕だって一人だけど、それにはそれで仕事で忙しい理由があるんだ。僕はそんなふうに自己を正当化して、彼女に声をかけたんだ。
「港が見える特等席でおいしいコーヒーでもどう?」
彼女は不思議がるでもなく、笑顔で、「うん」と一言答えてくれた。それから4度の冬を一緒に暮らした。
僕は君の名前が刻まれたキーホルダーに声をかけた。「おい。元気か?」。彼女の部屋の鍵がつけられていた彼女のキーホルダー。鍵はなにもついていない。僕はキーホルダーをボトルキープのボトルにひっかけて、席をたった。 マスターが僕に、そっと青い封筒をさしだしてきた。
「もし、あんたがイヴにきたら渡してくれと、頼まれていてね。約束したんだろう。クリスマスはあの三番目の席でいつもクリスマスを迎えるって」そういって、マスターは”リザーブ”と書いたコースターを三番目の席に置いた。
青くまぶしいラブ・レター・フロム・ユー。
そこにあったのは君のありったけの感情だった。アルファのエンジンをかけて、君の手紙をサイドシートに置いて。そっと目を閉じる。雨の音が消えて、まぶたの奥には出会ってからの誤解、すれ違いもすべての過去が自分の中で変わっていった。僕は瞬時に過去へタイムスリップした。
君のさみしさがわかる。君の声がききたい。すべてを忘れて、すべてを捨てて、それで何が望みなんだ?自分に問いかける。時を見つめて、そこには自分の知らない君がいたんだ。
僕は電話をした。ナンバーを押す指がこんなに重たいことはなかったろう。こんなにコールを長く感じたことはなかったろう。でるなよ、いやでてくれ、どちらにせよ、なにを話せばいいのかわからないのは同じことだろう。
7コール目。彼女の声が聞こえる。「もしもし・・・」「・・・僕。」長い沈黙の後、僕は言った。
「三番目の席をキープしてあるんだ。もし、一人で暇なら一緒にどう?」
サイドシートにラブ・レター・フロム・ユー。
風に揺れてるハイウェイを僕は北へと海岸沿いを走る。雨の音がリアルサウンドになる。
君の家がみえてくる。半年前のいつものようにヘッドライトを点滅させて、君の部屋へ合図をおくった。灯りのもれる君の部屋の電気は消えて、ライトに人影が揺れた。サンタ・マリア・ノヴェラの”確かに君”の香り。
どちらからともなく、寄り添って、寄り添うことが不自然ではない寒い季節になっていた。
「あっ」「あっ」
雨はいつのまにか銀色の雪に変わっていた。金色に飾られた海岸沿い、降る雪を二人で眺めて、それで幸せを感じることがどんなに大切なことか、たぶん君も同じだろう。
何もいわない。ただ横にいる。ただそばにいるだけ。君の瞳は少し濡れている。僕だって心はあふれている。
このまま一緒にずっといたい。ただ素直にそう思える僕がいて、涙と笑顔で輝いている君が確かにそばにいる。
これからもこうしてただそばにいる。
「愛している」と僕は伝えた。彼女は不思議がるでもなく、笑顔で、「うん」と一言答えてくれた。
これから二人は想い出をまた描いていく。ここからまた二人の「I LOVE YOU」がはじまった。
(ベースストーリー”山本達彦 Love Letter On The Side Seat”)